ウェブデザイナーは夢を見られやすい

恥ずかしながら「ウェブデザイナー」という職種について10年ほどになる。
恥ずかしいのでとくにその必要がない場では「事務員です」と名乗るし実際事務員とそう変わらんとおもってるし、もう少し事実に即さねばならない場では「ホームページ屋さんです」と名乗っている。ウェブデザイナーと名乗るのは同業者の交流会くらいである。

 

スキルとしては同人漫画あがりのそれっぽいイラスト一式、そこそこのライティング、aiとpsdに対応したデザインカンプ作成、jqueryとbraketsでのコーディング、wordpressのオリジナルテーマをゼロベースで起こせる(PHPはごまかしごまかしでなんとかする)、程度のものである。あとはグラフィックデザインあがりなのでindesignを使わない紙作業一式のラフ起こしから入稿まで。

(と書いてたがその後同人誌の制作で無事inDesignも習得した:20190517追記)

先日、せっかくなんで業務がらみの資格の一つでも取るか、とウェブデザイン技能検定なるものを受験してきた。ウェブデザインがらみでは唯一の国家資格だが、三級は実務に携わっていればほぼ無勉強でいける類のものである。

つつがなく試験を終えて、受験者の感想などツイート検索していた。

 

10年やってきた感想として本試験には実務能力との関係はほとんどないし採用面接の際に出されてもそうですかで終わる程度のものである。

しかし3級受験者のみなさんはこれが夢への第一歩、のように意気込んでいる方が少なくない印象であった。受験会場も、あきらかな転職組のような中高年が多かったように思う。わたしもそう見えてただろうが。

 

広告最適化により、わたしのネットサーフィンにはウェブデザイン転職系のバナーが多く出現する。

いつ見ても巨大バナーで採用を受け付けている面白法人カヤックエスプリの効いているであろうLIG製バナーのGREENなどの経験者向けが多いが、時折未経験女性向けの転職広告も出現する。

 

まあ女性向けのウェブデザイナーを促す広告はキラキラふわふわしてクリエイター様への夢のレールを敷いている。

よく見るものは「2週間でウェブデザイナーに!」の煽りである。女性は短期間で効果が出ると聞かないと飛びつかないらしく、まあ許容できる期間が2週間らしい。ダイエット系広告や英会話なんかにも2週間、はよく使われる。

2週間でウェブデザイナーになれるかどうかと言われれば職能の範囲によってはなったと言い張ることは可能である。採用につながるかは知らない。

 

2週間でウェブデザイナーになれる、系のバナーやランディングページはたいていパステルカラーで、お洒落な私服勤務で、笑顔で、クリエイターなワタシ!的な構成になっている。

ウェブデザインの面接官側に回ったことは何度かある。書類選考の権限がないとまれにこういった講座を間に受けたタイプと面接した。

元パティシエなんですけど2週間の講座を受けて知識をマスターしてきました!クリエイターになりたいんです!とか、作るということで社会を良くしていきたいんです!とか。

他の業種でもあるんだろうか、こういうの。未経験者の志望動機は、ボランティアのほうが向いてるんじゃないだろうかというようなキラキラしたものがやたらに多い。どうも、クリエイター、ウェブデザイナー様はそういう価値観で仕事をしていると考えているようである。

新卒がそういう良い子な動機を書いてしまうのは仕方ないが三十過ぎでもなぜだかウェブデザイナー未経験者はそういう志望動機を書いてくる。おそらくウェブデザイナーになりたいわけではなくそういう価値観の職場でそういう自分になりたくて、でもまあ手に職で食うには困らなさそうといった判断で志しているのだろう。カフェ経営とか保育士さんとか、それよりは会社員でいられるから、とかそういうものとして選ばれているのだろう。一昔前ならネイリストあたりを目指していたのではないだろうか。

 

で、まあ、そういうような動機でウェブデザイナーを目指して、まずはウェブデザイン技能検定とるぞ!これがとれればワタシもクリエイターの仲間入り!のような感覚でいるような受講者のツイートがそこそこ見受けられたな、という話。

 

 

紙媒体のみ扱うグラフィックデザインならばデザインのことだけ考えていられるがウェブデザイナーはコーディング、後工程、サーバ環境その他の開発系知識と無縁ではいられない。無縁でいたい、心から無縁でいたいがそうもいかない。デザインという文系むけスキルを磨くこととプログラムやサーバという理系向けスキルの両輪を求められる。

私の見てきたウェブ制作者なんてのはクリエイティビティなものではない。制作物とは納品物であり発注者の所有物、自分の作品ではない。

人事や総務、事務、営業(ドブ板型の営業でなく本来の意味での営業)の方がもっと創造的な職種だとわりと本気で思っている。

 

とはいえどのような業種でもそうだろうが、ごく一部には華々しく、ほんとうにクリエイティビティを発揮して、社会を変えようとしているデザイナーもいるだろう。自分が泥ばかり見てきたからといってこの世界には泥しかないと言うつもりもない。

しかしまあ、講座ちょっと受けてきたからやれますとごくありふれた零細企業に転職サイト経由で応募してくる段階で、まあ、あれだ。

 

 いろいろ言うけれど、では私はウェブデザイナーをやれているんだろうか。どんな人が向いているんだろうか。

例えば保育士などは「子供の笑顔が好きなんです」「子供と遊ぶのが好きなんです」では続けられない職業だろう。子供嫌いではもちろん難しくはあるだろうが、子供好きが最優先事項ではなくて、むしろ思い入れを深く持ちすぎてしまう人には向かないだろう。そこそこフラットに距離をとって、クラス単位だったり親の考えだったりも認識することができたり、泣きわめく子供にいちいち傷ついたりぶちぎれたりするようなこともなく(笑顔の子供は誰だって好きだ、笑顔でないときにどう接することができるかがプロだろう)対処できる、そういう人がむいているはずだ。子供の笑顔とか、遊ぶのが好きとか、そういうのはメイン報酬ではない、降ればラッキーなふとやってくるボーナスだ。

 

ウェブデザイナーだって、会心の「作品」ができたときをメイン報酬にしてしまってはいけない。それを目的にしてしまうと続けていけない。そんな仕事ができるのは10件に1件、あるいは百件に1件、もしくは一度も出会えないままの可能性だってある。

そしてできた「自分的に最高の作品」すら発注者や納期やなんやらの都合で「納品物」に作り替えなければいけないわけで。

 メインは作品作りでなく、「要望に応える快感」ではないかなと思う。少なくとも私は。そもそもが「デザイナー」なのである。デザインは商業物、発注者の所有物。自己表現ではない。グラフィックデザイナーになりたてのときは、作っているものが小さいうえに反応率を求められる類のものだったから「デザイナーって自販機みたいだな」と思ったものである。今もある意味正しいようには思う。たぶん外の人が思うクリエイティビティなアーティスト的デザイン職業はアートディレクターとかプランナーとか呼ばれてるやつ。それだってやはり自己表現はお呼びでないんだが。

 

で、まあ、つまりウェブデザイナーに向いていそうな資質。

「オーダーにこたえられる考えとスキルとその知識があること」で、さらに言うと「知識をためるのが好きであること」「知識の説明がもともと好きである」であって、対応屋、コンシェルジュ的な喜びを感じられるかどうかではないだろうか。
そのための知識のプール、説明力、判断力、というか。
整頓された貯蔵庫からふんわりしたオーダーに対して的確な食材を引っ張り出して料理してくる、というか。とくにウェブデザインは日々知識のアップデートが求められる分野だ。知識の仕入れと説明が好きでないと続かないだろう。(グラフィックデザインならここ10年でツールの使い方程度しか変化していないし、ツール自体もDTP創世記からillustrator一強だからまた違うんだろうが)

毎日毎日、はてブなり技術ブログなりをチェックし続けられる、そういう人でないと難しいし周囲はやはりそういうタイプが多い。

 

料理人だって「料理が好き」「お客様に喜んでほしい」は正直2番目以降の目標にすべきで、プロならば利益をちゃんと取る考え方をできるかどうかだ。

好き嫌いではなく、その業務に向いた性質かどうか。

 

ウェブデザイン技能検定の会場には、あきらかに同業者でない中年以降が多かった。ウェブ制作は外部から見ると「これから成長する」「人手不足にならない」「一度スキルを着ければずっとやっていける」ように見えるらしい。若い女の子のクリエイティビティな夢と、中年転職組の職人幻想が入り混じった会場。

 

 仕事選びって難しい。頭で考えたやりたいこと、あこがれだけでえらぶやりたいこと。自分自身のほんとうの望みがなんなのかは、間違えたあとでないと気づけない。

私はウェブデザイン続けてきていてよかったんだろうか。

仕事を問われて「事務員」と答えることが多いのは、デザイナーと答えるいたたまれなさもさることながら、事務員への憧れが今もあるからだ。

 

今回受験したのは3級だが、2級試験はそこそこ勉強しないと難しいようだ。受験するかどうしようか考えている。率直に言って実務では不要な知識が多く、実務そのものには結びつかないと感じる。ただ、資格は、安心できる。持っている人間にパワーストーンのような安心を与え、相対した人物にもおそらく安心を与える。資格とは安心だ。安心は、夢に都合がいい。

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